フラグメント生成二重微分断面積の測定


高エネルギー粒子加速器や宇宙環境において問題となる数10MeV粒子による材料損傷や被曝には核反応生成物である二次重荷電粒子(フラグメント=アル ファ粒子より重い粒子)が関与しています。このフラグメントは大きな線エネルギー付与(高LET)をもつために、局所的(マイクロメータ領域)に大きな電 離と損傷を与えることができます。

このフラグメントによる寄与を線量評価や半導体シングルイベント事象の評価に正しく取り入れるためにはフラグメントの生成確率 、放出エネルギー情報、放出角度情報が必要です。

数10MeV領域でのフラグメント二重微分断面積データは、現状では実験データが少なく、理論計算で推定しても精度の検証が難しいく、系統的な実験データ が求められています。

フラグメントは生成率が小さく、大きなエネギー損失を引き起こすとこから、効率のよい測定法を開発しないと系統的な測定は難しいので、大きな効率を有する ブラックカーブカウンター手法を改良した検出器を開発しました。

1.陽子入射反応に対する測定

図に陽子入射反応に対する測定装置を示します。左側の散乱チェンバーに試料を設置し、右側のブラックカーブ検出器でフラグメントを測定します。この検出器 には、新たに開発した、(1)アノード・カソード時間差粒子弁別方法、と、(2)突き抜け粒子エネルギー補正法を適用し、数10MeV領域での測定に十分 なエネルギー範囲をカバーできるような工夫が施されています。

bcc-cp
測定されたスペクトルを図に示します。横軸がエネルギーで縦軸が粒子種を表します。ブラックカーブカウンターでは粒子種に固有な最大エネルギー損失の値を 元に粒子を弁別することができます。

2d-spectrum for charged particle

上記の測定スペクトルを元に粒子ごとの二重微分断面積を導出します。二重微分断面積の測定結果の例としてシリコンに対するものを図に示します。実線、波線 は計算値で、計算モデルの違いを表しています。モデルを適切に選ぶことにより実験データをうまく再現できることがわかります。

DDX for charged particle


2.中性子入射反応に対する測定

図に中性子入射反応に対する測定装置を示します。中性子は陽子に比べ得られる強度が低いので、得られるフラグメントの放出率も非常に低くはかりにくいで す。そこで、(1)検出器内部試料法と(2)実験的検出効率決定法を新たに開発し、少ない生成量でも測定を可能にしました。

Bragg curve counter for neutron

測定されたスペクトルを図に示します。横軸がエネルギーで縦軸が粒子種を表します。ブラックカーブカウンターでは粒子種に固有な最大エネルギー損失の値を 元に粒子を弁別することができます。陽子の場合に比べSNが悪いのは、バックグラウンド中性子の寄与によるものです。

2D spectrum for neutron

上記の測定スペクトルを元にリチウムとベリリウムの0度方向の二重微分断面積を導出したものを図に示します。比較のために陽子のデータ、理論計算結果も載 せてあります。陽子のデータとの類似性が確認できました。
DDX for neutron

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参考文献
  1. Extension of energy acceptance of Bragg curve counter at the high-energy end M. Hagiwara, T. Oishi, M. Baba, T. Sanami, M. Takada, Nucl. Instrm. Meth. in print.
  2. A bragg curve counter with an active cathode to improve the energy threshold in fragment measurements, T.Sanami, M.Hagiwara, T.Oishi, M.Baba and M.Takada, Nucl. Instrm. Meth. A Vol 589/2 pp 193-201
  3. Measurements of double differential cross sections of secondary heavy charged particles induced by 70 MeV protons for microdosimetry study, M. Hagiwara, T. Sanami, T. Oishi, M. Baba and M. Takada, Journal of Radiation Protection Bulletins, a special issue (2005) 53-56.
  4. Measurement of differential cross sections of secondary heavy particles induced by tens of MeV particles, M. Hagiwara, T. Sanami, M. Baba, T. Oishi, N. Hirabayashi, M. Takada, H. Nakashima and S. Tanaka, Proceeding of the international conference on Nuclear Data for Science and Technology, 769 (2005) 1031-1034.