第2回 EGS5-Geant4-PHITS合同研究会
1. 概要
EGS5-Geant4-PHITS合同研究会を5/15(木)-5/16(金)にKEKにて開催します。医学利用、検出器シミュレーション、加速器設計、放射線遮へい、保健物理、宇宙・エネルギー開発をはじめ、基礎評価から応用研究にいたるまで、あらゆる分野でEGS5, Geant4, PHITSを用いた放射線シミュレーションに関する講演を募集します。本研究会は、異なる研究分野間や各種コード間、さらには開発者とユーザー間に存在する垣根を超えた、横断的な交流の場を提供することを目指しています。
日時 | 2025/5/15(木) - 5/16(金) |
場所 | 高エネルギー加速器研究機構(KEK) 研究本館1階 小林ホール |
2. アクセス
https://www.kek.jp/ja/access
(機構内の研究本館への道のりは守衛で確認下さい)
3. 講演者の方へ
本研究会の成果物として講演スライド集を発行予定です。
ご同意いただける方は講演までに下記クラウドへファイルをアップロード願います。
URL | https://kekcloud.kek.jp/index.php/s/JKgmMDRPGAPgFnK |
アップロードパスワード | sCpDCegg6P |
4. プログラム
5-15(木) | ||
13:00 | 開会式 | |
13:10 | (EGS5) EGS5の動向 | 波戸 芳仁(KEK) |
13:40 | (Geant4) Geant4-DNA/MPEXS-DNAによるマイクロドジメトリの動向 | 岡田 勝吾KEK) |
14:10 | (PHITS)PHITSの動向と最新版(ver 3.35)の特徴 | 佐藤 達彦(JAEA) |
14:40 | 休憩 | |
15:00 | (加速器設計・遮蔽計算1) NanoTerasuにおけるPHITSを用いた遮蔽設計及びその検証 | 松田 洋樹(QST) |
15:20 | (加速器設計・遮蔽計算2) 原子力第一船むつの遮蔽効果確認実験に係るPHITSによるベンチマーク解析 | 松田 規宏(JAEA) |
15:40 | (加速器設計・遮蔽計算3) パルス中性子ビームの実験とシミュレーション | 原 かおる(KEK) |
16:00 | 休憩 | |
16:20 | (加速器設計・遮蔽計算4) PHITSによる大型加速器施設計算モデル作成のTips | 仁井田 浩二(RIST) |
16:40 | (実験支援1) J-PARC COMET実験における放射線計算 | 内山 雄祐(KEK,J-PARC) |
17:00 | (実験支援2) アイスランドでの宇宙線ミューオン観測へ向けた粒子シミュレーション | 小財 正義(ROIS) |
17:20 | 懇親会 | |
5/16(金) | ||
9:20 | (コード開発1) 業界仕様のメッシャーツールによる複雑なトポロジー形状のPHITS計算空間への取り込み | 阪間 稔(徳島大) |
9:40 | (コード開発2) PHITSを用いた独立計算システムに関する基礎検証 | 千々岩 拓夢(メディポリス陽子線セ) |
10:00 | (コード開発3) PHITSにおける飛跡構造解析モードの2024年度の現状と応用 | 平田 悠歩(JAEA) |
10:20 | 休憩&写真撮影 | |
11:00 | (コード開発4) EGS5電子輸送におけるカットオフエネルギーと計算精度の最適評価 | 岩瀬 広(KEK) |
11:20 | (計算モデル・核データ1) JENDL-5 断面積α線ライブラリを用いたAmBe線源等の計算 | 小川 達彦(JAEA) |
11:40 | (計算モデル・核データ2) INC-ELFモデルによるα粒子入射反応計算の現状 | 古田 稔将(九州大) |
12:00 | 昼食 | |
13:00 | (計算モデル・核データ3) ハドロン治療への応用に向けた相対論的原子核模型に基づくQMDシミュレーション | 芳賀 昭弘(徳島大) |
13:20 | (医学物理1) QST放医研におけるPHITSを用いた医療放射線の被ばく線量評価と放射線防護教育ツールの開発の紹介 | 古場 裕介(QST) |
13:40 | (医学物理2) PHITSを用いたフォトンカウンティングCT検査の臓器被ばく線量計算について | 齊藤 柚季(都立大) |
14:00 | 休憩 | |
14:20 | (生物応用1) Geant4-DNAへの応用を目的としたOHラジカルによるDNA損傷の分子動力学計算 | 平野 祥之(名大) |
14:40 | (生物応用2) PHITS飛跡構造シミュレーションに基づくDNA損傷推定 | 松谷 悠佑(JAEA・北大) |
15:00 | パネルディスカッション (ユーザから開発者への要望、QA) | |
16:00 | 閉会式 |
5. 要旨
5.1. NanoTerasuにおけるPHITSを用いた遮蔽設計及びその検証
松田洋樹*(1)、竹内章博(1)、萩原雅之(1)、早川勢也(1)、糸賀俊朗(2)
(1) QST、(2) JASRI
"3 GeV高輝度放射光施設NanoTerasuは、2023年度に建設を完了し、2024年度よりユーザー運転を開始した。本施設の遮蔽設計は、PHITSによるモンテカルロシミュレーションと半経験式に基づく計算結果を比較・検討し、両者に整合性があることを確認した上で進められた。その計算結果に基づき、必要な箇所に局所遮蔽体の設置が行われている。 加速器のコミッショニング、ユーザー運転、ならびにマシンスタディの各段階では、積算線量計およびサーベイメータを用いた線量の実測を実施し、設計時の計算値との比較により遮蔽設計の妥当性を評価している。 本発表では、3 GeV電子ビームの損失により発生する二次粒子に着目し、線量の実測値とPHITSによるシミュレーション結果との比較・検討について紹介する。電子ビームが散乱体に入射する条件下において、散乱体から1 m離れた位置で得られた線量測定値とPHITS ver. 3.31による計算結果を比較したところ、ビーム前方方向の中性子線量は良好な一致を示した。一方、その他の粒子種や測定角度においては、計算値と実測値の比C/Eが0.1を下回るケースも確認された。 さらに、散乱体と測定点の間に約1 m厚のコンクリート遮蔽を設置した条件下では、90度方向の中性子線量についてはPHITS計算値と比較的良好に一致したものの、前方方向の光子および中性子線量についてはC/Eが1を超える傾向が見られ、計算値が過大評価されている可能性が示唆された。 本発表では、PHITS ver. 3.35を用いた再計算の結果について報告する。"
5.2. 原子力第一船むつの遮蔽効果確認実験に係るPHITSによるベンチマーク解析
松田 規宏(1), 延原 文祥(2), 平尾 好弘(3)
(1)日本原子力研究開発機構, (2)東京ニュークリア・サービス株式会社, (3)海上技術安全研究所
日本原子力学会放射線工学部会「簡易遮蔽計算コードレビューワーキンググループ」では、新設した簡易遮蔽計算コードPOKERに係る妥当性検証活動の一環として、原子力第一船むつの遮蔽効果確認実験で実施された光子の「コンクリート透過実験」を対象としたベンチマーク解析が行われてきた。(本件に関する報告書は近日中に公開予定である。)本実験はJRR-4の散乱実験室で実施されたもので、遮蔽体となる普通コンクリートは125cm厚まで、重コンクリートは100cm厚までの透過光子の線量率が報告されており、粒子・重イオン輸送計算コードPHITSを用いた解析では、普通コンクリートに対する測定結果に対して10%以下の誤差で精度良く再現することを確認した。本発表では、ベンチマーク実験の概要とともに、PHITSコードに絞った解析結果を報告する。
5.3. パルス中性子ビームの実験とシミュレーション
原 かおる
高エネルギー加速器研究機構
核データ測定研究やイメージング技術開発、物質材料ナノ構造研究をそれぞれ目的としたパルス中性子ビーム実験と、それらのデータ解析に用いたPHITSやEGS5の利用例を紹介する。実験値はJ-PARC MLFのBL04、BL10、BL15にて取得した。実験値として得た、(1)中性子捕獲反応測定用のガンマ線検出器のパルス波高スペクトル、(2)中性子共鳴エネルギー領域のTa-181の中性子透過TOFスペクトル、(3)冷中性子・熱中性子エネルギー領域の水とセメントの中性子透過率TOFスペクトルに対して、シミュレーション計算を行ったので、計算値と実験値の比較について報告する。
5.4. PHITSによる大型加速器施設計算モデル作成のTips
仁井田浩二
高度情報科学技術研究機構
PHITSコードのインターフェイス、即ち入力機能、出力機能には、他のコードにはない利便性の高いPHITS固有の優れたものが幾つかある。例えば入力ファイルでユーザー定義の定数を使えるとか、計算結果の出力を2次元、3次元の図で直接表示できる等である。これらの機能は、複雑なモデルの計算や、パラメータを変化させた時の結果の検証に大きな力を示す。しかしながら、J-PARC等の大型加速器施設では、モデル構築、その変更、全体を対象とした遮蔽計算等自体に多大な人的な、また、計算資源が必要とされる。PHITSコードは、J-PARCの加速施設の設計や遮蔽評価のために開発された経緯があるため、大型加速器施設のモデル構築に関しても、効率化のためのノウハウが蓄積されている。本公演では、それらのTipsを紹介して、大型施設に限らず、PHITSによるモデル作成の一助になればと考えている。
5.5. J-PARC COMET実験における放射線計算
内山雄祐*(1,2), 深尾祥紀(1,2), 井上薫(1), 牧村俊助(1,2), 長澤豊(3),尾ノ井正裕(3),執行信寛(4),吉田誠(1,2)
(1)KEK, (2) J-PARCセンター, (3) 金属技研, (4) 九州大
荷電レプトンにおけるフレーバー非保存過程の探索のため、J-PARCハドロン実験施設においてCOMET実験の準備が進められている。世界最大強度のミュー粒子を生成するために、3.2 kW 8 GeV陽子ビームをグラファイトまたはタングステン製の標的に当て、そこから発生するパイ中間子を標的を覆い囲む超伝導捕獲ソレノイドを用いて大立体角で取り出す。標的やビームダンプで散乱または生成される放射線により施設は過酷な環境となる。COMET実験ではGeant4, PHITS, MARSを用いて実験環境をシミュレートし施設および実験装置を設計している。Geant4では主に、事象毎のシミュレーションを行い、検出器応答や再構成手法、背景事象そして実験感度をスタディしている。一方、PHITSやMARSでは統計的な解析により即時および残留線量やコイルや遮蔽体への熱負荷・放射線損傷などをスタディしている。本講演ではCOMETにおけるモンテカルロシミュレーションの活用方法と課題を報告・議論する。
5.6. アイスランドでの宇宙線ミューオン観測へ向けた粒子シミュレーション
小財正義*(1), 林優希(2), 門倉昭(1), 加藤千尋(2), 宗像一起(2)
(1) 情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設、(2) 信州大学
宇宙線ミューオン観測は高い統計量と方向分解能を併せ持ち、特に太陽圏や惑星間空間での宇宙線伝搬に関する研究へ貢献してきた。我々はGlobal Muon Detector Network (GMDN; http://hdl.handle.net/10091/0002001448)としてミューオン計の国際ネットワーク観測を実施しており、現在は北極域の空白を埋めるべく、アイスランドへの検出器導入を計画している。この新規観測立ち上げを契機に、屋外設置型ミューオン計や、GMDNの新型データ処理系の実証試験も行う。その装置設計やサイエンス検討のため、大気中と検出器での放射線伝搬シミュレーションが必要である。また、ミューオン観測量から宇宙空間での宇宙線物理量へ変換するための解析手法に関しても、近年、気温効果補正法の見直しなどによる新たな展開を迎えている。大気中の伝搬シミュレーションはこれらデータ解析手法の刷新へも貢献できる。以上の研究に関してPHITSの活用を始めており、その紹介・報告を行う。
5.7. 業界仕様のメッシャーツールによる複雑なトポロジー形状のPHITS計算空間への取り込み
阪間稔*(1),中野滉人(1),佐瀬卓也(2),小林真(2),横田健斗(3)
(1)徳島大学,(2)核融合科学研究所,(3)国立がんセンター東病院
PHITS(MCNPも同様)では,PHITS語と呼ばれる独自のトポロジー形状記述方式となるが,これはシンプルな形状記述に制限されており,当然のことながら,複雑なトポロジー形状を精確に再現することは非常に困難である.そこで,自動車産業に代表される製造業分野では,3D-CADデザインからの有限要素モデリングが業界標準であり,プリポスト処理と呼ばれるサーフェスメッシングからのソリッドボリュームメッシングを経由して,トポロジーメッシャー結果がソルバーへ連成されていてく.一般に,業界標準とされるソルバーには,応力構造解析・最適化,熱及び粒子流体解析,電磁界解析,鋳造解析,プレス成形解析,3Dプリント成形があり,メッシャー結果で構成されたモデリング状況下で,それらシミュレーション解析が実行される.ここで,粒子・放射線挙動シミュレーション解析でも同じく,プリポスト処理によるメッシャーツールモデリングが重要で,有限要素法に準拠したテトラ(四面体)メッシングによるポリゴンモデルを扱うことが前提となっている.本発表では,業界標準メッシャーツールのAltair社SimLab/HyperWorks CFD, HEXAGON MSC社Apex modelerを,ポリゴンメッシュ編集ツールのUEL社Polygonalmeisterを,さらに3DディスプレイでのParaviewや3D-CGのBlenderの活用事例について紹介する.
5.8. PHITSを用いた独立計算システムに関する基礎検証
千々岩 拓夢*(1),磯村 泰己(1),垣花 泰政(1)
(1)メディポリス国際陽子線治療センター
放射線治療では精密かつ正確な照射のため治療計画の独立検証が推奨されている。当施設の陽子線治療では治療計画に対する独立検証法がまだ確立されていない。粒子輸送コードPHITSを用いた独立計算システム構築を目的として基礎検証を行った。当施設の治療装置は拡大散乱法の一つであるワブラー法を採用しており、SOBPの形成にはリッジフィルターが使われている。体系はガントリーヘッド内のビームライン上の装置を再現し、アイソセンター上に水ファントム(30x30 cm³)を模擬した。線源はガウス分布線源を用い、実測の半値全幅と合わせた。ワブラー半径はワブラー電磁石の磁場強度(mgf)の調整により設定した。210 MeV・最大照射野において、モノピークビームとSOBPビームのPDDとOCRが測定値と一致するように線源パラメータの最適化を行った。測定値と計算値の整合性の評価にガンマ解析を用いた。閾値は3 mm/3%とし、ガンマパス率90%を基準とした。線源サイズは0.5 mm以下の誤差で一致した。PDDとOCRのガンマパス率はそれぞれ平均100%、97%となった。各ビームライン上の装置通過後のビーム特性が十分に再現され、当施設におけるPHITSを利用した独立検証の有用性が示された。
5.9. PHITSにおける飛跡構造解析モードの2024年度の現状と応用
平田悠歩*(1),甲斐健師(1),小川達彦(1),松谷悠佑(2),佐藤達彦(1)
(1)JAEA、(2)北海道大学
放射線が生体や材料に及ぼす影響とその発生機序を評価するためには、放射線のエネルギーが物質に付与される過程を解析する必要がある。このような解析を可能とするため、PHITSには飛跡構造解析モードが実装されており、放射線と物質との相互作用を逐次的に追跡することで、ナノスケールでの高分解能なシミュレーションが可能である。本モードは、通常の連続的なエネルギー損失モデルでは捉えられない粒子の微細な軌跡や局所的なエネルギー付与密度の評価を可能とし、DNA損傷の初期過程の再現、放射線検出器の応答解析、材料損傷の評価など、幅広い応用が展開されている。本発表では、PHITSにおける飛跡構造解析モードの概要とその応用事例について紹介する。
5.10. JENDL-5 断面積α線ライブラリを用いたAmBe線源等の計算
小川達彦*(1)
(1)日本原子力研究開発機構
"アルファ線を放出するアクチノイドと、中性子分離エネルギーが低い軽核(主にBe)から構成される複合中性子源をPHITSによって模擬する計算手法を考案した。 アクチノイドからのα線放出はPHITSのRI線源機能で計算し、そのα線はアクチノイド粒の中を飛ぶ。このときα線が軽核に到達する前にアクチノイドから受ける阻止能はPHITSに組み込まれたATIMA拡張版によって計算する。さらにα線が軽核と反応する断面積には、JENDL-5を使用した。 従来考案された手法とは対照的に、この手法では、アクチノイドの粒子径依存性、中性子放出絶対強度、光子のエネルギースペクトル、中性子多重度、時間構造など、ソースの様々な量をほとんど近似なしに予測することができる。また、JENDL-5断面積が対応する限り、軽核はBeだけでなくFやC-13なども扱うことができるため、広く使われるAmBeだけでなく、AmFやPuC-13線源も計算可能である。 本発表ではその計算方法と、計算精度、実用上の留意点などについて説明する。"
5.11. INC-ELFモデルによるα粒子入射反応計算の現状
古田 稔将*(1), 魚住 裕介(1), 山口 雄司(2)
(1) 九州大学、(2) JAEA
数百MeVα粒子の輸送計算は、宇宙開発や加速器施設の設計等において必要とされている。輸送計算の信頼性向上に向けて、α粒子の非弾性散乱やフラグメンテーション反応の二重微分断面積を高精度で予測できる核反応モデルの開発が極めて重要となる。本研究では、230 MeV/u α粒子入射反応の荷電粒子スペクトルを再現するため、INCモデルを改良した。改良モデルではα粒子非弾性散乱に加えて、各フラグメントのノックアウト反応や間接ピックアップ反応など陽子入射反応研究で計算方法が確立されたものを取り入れる一方、実験データの再現性を高めるためクラスター間斥力などの仮定も取り入れた。開発したモデルは一般化蒸発模型GEMとの組み合わせによりα粒子、3He、三重陽子、重陽子、陽子の二重微分断面積データを全て高精度で再現することに成功した。さらに入射α粒子のフラグメンテーションとターゲットのフラグメンテーション、ノックアウト反応、間接ピックアップ反応の役割について議論を行う。数百MeVα粒子の輸送計算は、宇宙開発や加速器施設の設計等において必要とされている。輸送計算の信頼性向上に向けて、α粒子の非弾性散乱やフラグメンテーション反応の二重微分断面積を高精度で予測できる核反応モデルの開発が極めて重要となる。本研究では、230 MeV/u α粒子入射反応の荷電粒子スペクトルを再現するため、INCモデルを改良した。改良モデルではα粒子非弾性散乱に加えて、各フラグメントのノックアウト反応や間接ピックアップ反応など陽子入射反応研究で計算方法が確立されたものを取り入れる一方、実験データの再現性を高めるためクラスター間斥力などの仮定も取り入れた。改良したモデルは一般化蒸発模型GEMとの組み合わせによりα粒子、3He、三重陽子、重陽子、陽子の二重微分断面積データを全て高精度で再現することに成功した。さらに入射α粒子のフラグメンテーションとターゲットのフラグメンテーション、ノックアウト反応、間接ピックアップ反応の役割について議論を行う。
5.12. ハドロン治療への応用に向けた相対論的原子核模型に基づくQMDシミュレーション
芳賀昭弘*(1), 佐藤義秀(1), 藤原春奈(1), 坂田洞察(2), David Bolst(3), Edward C. Simpson(4), Susanna Guatelli(3)
(1)徳島大学, (2)産総研, (3)ウーロンゴン大学, (4)オーストラリア国立大学
本研究では、ハドロン治療のエネルギーレンジである50–400MeV/uにおける核破砕シミュレーションの精度を、相対論的平均場模型に基づくQMDモデル(RQMD.RMFモデル)を用いて評価した。16 種類のパラメータセットを用い、RQMD.RMFモデルにより得られる安定核基底状態特性から、適応型ガウス波束幅を用いた NS2 パラメータセットが、広範な質量範囲にわたり原子核を最も適切に記述できることを示した。続いて、炭素イオンをH,C,O,Al,Ti,Cu標的に衝突させた際の破砕断面積を、50,95,290,400MeV/u の入射エネルギーでシミュレーションし、GANIL及びHIMACの実験データと比較した。その結果、RQMD.RMFモデルは50,95MeV/uで Geant4v11.2に実装されているLight Ion QMD(LIQMD), BIC, INCLモデルよりも優れた再現性を示し、290,400 MeV/uでは LIQMD と同等の精度を達成した。本研究は、RQMD.RMF モデルが核破砕解析において信頼性の高い枠組みを提供し、ハドロン治療への応用の可能性を示した。
5.13. QST放医研におけるPHITSを用いた医療放射線の被ばく線量評価と放射線防護教育ツールの開発の紹介
古場 裕介*(1)、 平井 悠太(1,2)、 齊藤 柚希(1,2)、藤瀬 大助(1)
(1)QST、(2)首都大学東京
量子科学技術研究開発機構(QST)放射線医学研究所(放医研)では医療放射線による患者や医療従事者の医療被ばく及び職業被ばくについて実態調査や線量評価を行っている。患者や医療従事者の臓器・組織の被ばく線量や実効線量を評価する際、PHITSと計算用標準人ファントム等を用いたシミュレーションを行っている。本発表ではQST放医研で取り組んできた医療放射線の被ばく線量評価に関する研究について紹介する。また、近年ではPHITSによる空間線量分布の計算結果とクロスリアリティ技術を用いた放射線防護教育のためのツール開発も行っているため、併せて本発表にて紹介する。
5.14. PHITSを用いたフォトンカウンティングCT検査の臓器被ばく線量計算について
齊藤柚季(1), 古場裕介(2), 張維珊(1), 勝沼泰(3), 吉田亮一(3), 平井悠大(1), 眞正浄光(1)
(1)東京都立大学、(2)量子化学技術研究開発機構、(3)東海大学医学部付属病院
日本はCT装置の保有台数およびCT検査数が他国に比べ多く、一度のCT検査における被ばく量は一般撮影などよりも高いことから、患者が受けるCT検査での被ばく低減および評価が求められている。そういった需要に答えるツールとしてWAZA-ARIがある。WAZA-ARIはPHITSでの臓器被ばく線量の計算結果を使用したもので、その計算には計算用人体ファントムであるJM、JFファントムとCT装置固有の線源のAl半価層や線量分布等を使用している。そのため、近年注目されているフォトンカウンティングCTの臓器被ばく線量をWAZA-ARIを使用して計算するためにはフォトンカウティングCT装置固有の線源モデルが必要になる。よって、本研究ではフォトンカウンティングCT装置の線源モデルの作成および臓器被ばく線量の計算を行った。半導体検出器Piranhaを使用し、水平方向のAl半価層と吸収線量の分布を測定した結果から線源モデルを作成しPHITSを用いて検証を行った。検証の結果、作成した線源モデルは実際の線源を再現できていることがわかったため、PHITSにて人体ファントムの臓器被ばく線量計算を行った。その結果、CTDIvol当たりの臓器被ばく線量は従来のエネルギー積分型CTと顕著な差はないことがわかった。
5.15. Geant4-DNAへの応用を目的としたOHラジカルによるDNA損傷の分子動力学計算
平野 祥之*(1), 阿蘇 司(2), 原 正憲(3), 藤原 進(4)
(1)名古屋大学医学系研究科、(2)富山高等専門学校、(3)富山大学、(4)京都工芸繊維大学
放射線照射における間接作用を定量的に見積もることは、放射線治療の治療効果の理解や医療被ばく評価においても重要である。Geant4およびGeant4-DNAを用いることで、マクロな線量分布から細胞レベルの線量分布(トラック構造)を計算でき、さらに放射線水分解によって生じるOHラジカル(・OH)などの輸送および反応も計算できる。しかし、・OHとDNAとの反応については、・OHがDNAの糖部分に接近した際、ある確率で鎖切断が起こると仮定し、それがシミュレーションにおけるパラメータとなっている。本研究では、LAMMPSを用いた分子動力学およびDFTB+による反応動力学シミュレーションを通じて・OHがDNAの水素を引き抜き、DNAラジカルが生成される過程を計算した。分子動力学計算の結果、・OHは糖のC5’位に結合したH5’に接近しやすいことが示され、両者の相対位置にも依存するが、水素引き抜き反応が確認された。DNA損傷後、鎖切断が誘発されるかは、損傷の構造や酸素濃度など周囲の環境にも依存するため、本研究では鎖切断が起きる確率までは算出できなかったが、将来的には、これらの要因を考慮することで、Geant4-DNAにおいてより正確なパラメータの導入とDNA損傷構造の見積もりが可能になることが期待される。
5.16. PHITS飛跡構造シミュレーションに基づくDNA損傷推定
松谷悠佑*(1)(2), 赤松憲(3), 小川達彦(1), 中野敏彰(3), 鹿園直哉(3), 甲斐健師(1), 佐藤達彦(1)
(1)日本原子力研究開発機構, (2)北海道大学, (3)量子科学技術研究開発機構
細胞死などの後発の放射線影響は、放射線飛跡上で誘発する初期の DNA 損傷数やその複雑さと深い関わりがある。そのため、モンテカルロシミュレーションに基づく DNA 損傷解析は、世界的に注目されている研究テーマである。そこで本研究では、汎用放射線挙動解析コードであるParticle and Heavy Ion Transport code System(PHITS)で計算されるDNAスケールの飛跡構造解析結果に基づき、DNA損傷収量を推定するモデルを開発したため、紹介する。この開発モデルでは、付与エネルギーあたりの電離・励起数やそれらの距離を解析することで、電子線・陽子線・α線・炭素線に対する一本鎖切断や二本鎖切断の収率を予測することに成功した。また、電離や励起の空間距離は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法で実測された脱塩基損傷(APサイト)間の距離に対応することが確認された。本開発コードにより、放射線の飛跡構造と生物影響の正確な理解に貢献することが期待される。