高エネルギー陽子加速器施設では、運転中に発生する高エネルギーの二次粒子(中性子、陽子、ミュオンなど)や熱中性子により、ビームライン周囲の建物や機器の内部に放射性核種が生成(放射化)されます。施設廃止後の処分において問題となるコンクリート(壁や床)の放射化では、熱中性子捕獲生成核種が重要であり、コンクリートの表面や内部に照射された熱中性子の量を評価することを目指して研究を行ってきました。
ベータ線放出核種のCl-36は半減期が30万年という長い半減期を持つため、加速器施設の運転履歴の時間スケールでは減衰が無視でき、積算の熱中性子被爆量を評価するのに適した核種です。Cl-36の生成量はごくわずかであるため、通常の放射能測定法でCl-36を定量することは容易ではありませんが、加速器室量分析法(AMS)という高感度な分析手法により、Cl-36とCl-35の同位体存在比を測定することが可能です。
AMSによりCl-36を測定するためには、コンクリート中に含まれるClを取り出して AgCl 結晶の形にする必要があります。様々な条件検討の結果、下記に示す試料調製法を確立しました。この方法では5g以下のコンクリート粉末から試料を調製することができます。また、Cl-36のAMS測定において妨害となるS-36を分離除去することにより、精度の高いAMS測定が可能となっています。
AMSによるCl-36の測定は、筑波大学応用加速器部門(UTTAC)で開発されたAMS 測定システム(http://www.tac.tsukuba.ac.jp/~ams/)を利用しました。コンクリート試料から調製した試料測定の一例を示します。Cl-36に帰属されるカウント数を正確に測定でき、別に測定したCl-35の積算電流値との比から、未知試料中のCl-36とCl-35の同位体存在比を決定できます。
AMSで測定したCl-36/Cl-35同位対比から、試料コンクリートに照射された熱中性子の積算量を求めることができます。様々な陽子加速器および電子加速器施設において測定した、コンクリート内部における熱中性子被爆量を示します。この結果から、10-30年程度運転した大型の加速器施設においては、ビームライン近傍のコンクリート表面における熱中性子被爆量は1012 - 1014 ( n/cm2 )程度であること、多くの施設においてコンクリート表面よりも5-10cm程度内部で熱中性子の被爆量が最大となること、コンクリート内部への熱中性子の浸入の様子は、加速器の種類やエネルギーによって大きく異なることなどが明らかになりました。